はじめに

前回の記事では、バックアップがあっても、仕事をそのまま再開できるとは限らないという話をした。

データが残っていても、

  • どこまで終わっていたか
  • 何を確認待ちにしていたか
  • 次に何をする予定だったか

という「仕事の現在地点」が分からなければ、再開には少し時間がかかる。

だから、必要なら一言だけでも現在地点を残しておく。

これは大がかりな仕組みでなくてもよい。

では、その一言は、どこへ残せばよいのだろう。

紙の付箋。

パソコンのデスクトップメモ。

メール。

チャット。

共有フォルダ。

業務システム。

いまは情報を残す方法がたくさんある。

しかし、保存場所を決める前に、まず考えてみたいことがある。

そのメモは、誰が次に使う情報なのか。


自分のためのメモと、誰かへ渡す情報は違う

たとえば、今日の仕事を終える前に、

「A社へ明日確認」

と書いておく。

明日の自分が見るだけなら、それで十分かもしれない。

紙の付箋でもよい。

デスクトップのメモでもよい。

手帳でもよい。

そこには会社全体で共有する必要もなければ、長期間保存する必要もない。

一方で、

「A社へ確認後、請求書を発送」

という情報を、明日は別の担当者が引き継ぐのであれば事情が変わる。

自分の机に貼った付箋では届かない。

相手が見ることのできる場所へ移す必要がある。

さらに、

「金額についてA社から回答待ち」

という状態を営業担当、経理担当、責任者の三人が知る必要があるなら、また別の方法が必要になる。

同じ一行の情報でも、

誰が使うかによって、必要な置き場所が変わる。


情報を残すと、すぐ「共有」の話になりやすい

情報管理について考えると、

「それなら共有ツールを使いましょう」

という話になりやすい。

チャット。

グループウェア。

タスク管理。

顧客管理。

クラウドストレージ。

情報を一か所へ集めれば、複数の人が確認できる。

履歴も残せる。

検索もしやすくなる。

確かに便利である。

ただ、小規模な会社の日常では、すべての情報が同じ重さを持っているわけではない。

たとえば、

「午後に電話する」

という自分だけのメモまで共有システムへ登録する必要があるだろうか。

案件を作り、

担当者を設定し、

期限を入れ、

分類し、

通知先を選ぶ。

そこまでして残すほどではない情報もある。

むしろ入力が面倒になり、

「あとで書こう」

と思っているうちに残らないこともある。


重い仕組みほど、よい記録になるとは限らない

記録の仕組みを整えると、多くのことができるようになる。

誰が書いたか。

いつ変更したか。

誰が見られるか。

どの案件に属するか。

どの部署が担当するか。

履歴を何年残すか。

こうした管理が必要な仕事もある。

しかし、管理能力が高いことと、日常で使いやすいことは同じではない。

自分が明日続きをするためだけのメモに、

報告、

承認、

分類、

権限設定、

保存期限

まで必要になれば、少し重い。

情報をきちんと管理しようとするほど、

情報を残すための仕事そのものが増える

ことがある。

だから、何でも同じ場所へ集めればよいとは限らない。

必要なのは、できるだけ大きな仕組みではなく、その情報に必要なだけの仕組みである。


付箋がなくならないのには理由がある

パソコンの周りに付箋を貼っている人は今でもいる。

デスクトップ上の付箋アプリを使っている人もいる。

一見すると、もっと整理された仕組みに移した方がよさそうに見える。

しかし、付箋には付箋なりの強さがある。

開く必要がない。

分類しなくてよい。

ログインしなくてよい。

自分が必要な間だけ置いておける。

そして不要になれば捨てられる。

つまり、

短く、自分だけが使い、寿命も短い情報

には、とても合っている。

重要なのは、付箋が古いか新しいかではない。

その情報の用途に合っているかどうかである。


メールも、まだなくなっていない

一方で、複数の人や会社をまたいで情報を渡すとき、メールはいまでもよく使われている。

メールには不便なところも多い。

情報が分散しやすい。

後から探しにくい。

同じ内容が何度も転送される。

最新版がどれか分からなくなることもある。

それでも残っている理由の一つは、

相手を指定するだけで情報を届けられる

ことではないだろうか。

取引先。

税理士。

社会保険労務士。

銀行。

別部署。

一時的に関わる担当者。

こうした相手へ情報を渡すとき、

新しくアカウントを作ってもらったり、

グループへ招待したり、

閲覧権限を設定したりしなくても、

メールアドレスが分かれば送ることができる。

つまりメールには、

別の管理環境にいる相手とも接続しやすい

という性質がある。

もちろん、だから何でもメールでよいという話ではない。

社内で継続して更新する情報なら、共有ツールの方が扱いやすいことも多い。

大切なのは、

「どのツールが一番優れているか」

ではなく、

誰に渡す情報なのかによって、使いやすい経路が違う

ということである。


情報を集めると、今度は権限管理が必要になる

情報を一か所へ集約すると便利になる。

しかし、その次には、

「誰が見てよいのか」

という問題が出てくる。

営業情報。

給与情報。

会計情報。

顧客情報。

経営情報。

すべてを全員が見る必要はない。

そこで、

部署。

役職。

グループ。

閲覧権限。

編集権限。

といった管理が必要になる。

大きな組織では、それが必要なことも多い。

一方で、小規模な会社では、細かな権限体系を作り、それを維持する仕事そのものが負担になることもある。

人が増えた。

担当が変わった。

退職した。

兼務になった。

外部の人が一時的に参加した。

そのたびに設定を直さなければならない。

情報をまとめたことで、

情報を管理する仕事が新しく発生する

こともある。

情報の分散を減らした代わりに、分類や権限管理という別の仕事が増える。

複雑さがなくなるのではなく、別の場所へ移ることもある。

ここでも、仕組みを大きくすることが必ずしも正解ではない。


まず「誰が次に使うか」を考えてみる

情報を残すとき、最初から保存場所を決めるのではなく、

まず、次に誰が使うのか

を考えてみる。

たとえば、

自分だけが使う

今日から明日までの短いメモ。

これは付箋でもよいかもしれない。

特定の一人へ渡す

確認依頼や引き継ぎ。

メールやチャットが使いやすいこともある。

複数人で継続して使う

案件の状態や共有資料。

共有フォルダや業務システムの方がよいかもしれない。

社外の相手とやり取りする

会社をまたぐ情報。

メールや相手側の指定された仕組みを使うことになるかもしれない。

これは、管理方法を決めるための最初の手がかりである。

実際には、

  • どれくらい長く残す必要があるか
  • 後から確認する必要があるか
  • 判断や責任に関わるか
  • 何人が継続して使うか

によっても適した方法は変わる。

それでも、

最初に相手を見る

だけで、必要以上に重い仕組みを選ぶことは減らせる。


会計にも「相手」がある

会計の仕事でも、この考え方は少し似ている。

会計というと、

金額。

日付。

科目。

税区分。

といった情報を最初に考えやすい。

もちろん、それらは重要である。

しかし実際の仕事では、

誰との取引だったのか

が重要になる場面も多い。

この支払いはどこへ払ったものなのか。

この入金は誰からなのか。

去年も同じ相手との取引があったのか。

請求書はどこから届いていたのか。

取引の内容を思い出すとき、人は勘定科目より先に相手を思い出すこともある。

つまり会計情報も、

数字だけではなく、

相手との関係の中に置かれている。

これは会計に限ったことではない。

請求も、

発注も、

問い合わせも、

契約も、

仕事の多くは誰かとのやり取りの中で進んでいる。

情報は、それ単独で存在しているのではなく、

誰かとの仕事の途中に置かれている

と考えることもできる。


共有することが目的ではない

情報を共有すること自体が目的になると、

共有する情報が増える。

共有場所が増える。

ルールが増える。

管理する人も必要になる。

しかし本来必要だったのは、

次の人が仕事を続けられることだったはずである。

であれば、

全部を共有する必要はない。

全部を一元管理する必要もない。

必要なのは、

必要な人へ、必要な情報が届くこと

である。

自分だけなら、自分へ届けばよい。

一人の担当者なら、その人へ届けばよい。

会社全体で使うなら、全体へ届く場所が必要になる。

そして後から確認する必要がある情報なら、それに合った残し方が必要になる。

情報管理の大きさは、組織の大きさだけでなく、

その情報が越える必要のある境界や、残しておく時間

に合わせてもよいのかもしれない。


今日のメモを一つだけ見てみる

特別な仕組みを導入する必要はない。

まず、今日残したメモを一つだけ見てみる。

そして、

これは誰が次に使う情報だろう

と考えてみる。

自分だけなら、そのままでよいかもしれない。

他の担当者も必要なら、置き場所を少し変えた方がよいかもしれない。

社外の相手へ渡すものなら、相手が受け取れる方法を選ぶ必要がある。

長く残す必要があるなら、一時的な付箋だけでは足りないかもしれない。

逆に、

会社全体で共有する必要がないものまで大きな仕組みに入れているなら、

もっと軽い方法へ戻してもよい。


情報管理は、保存場所より相手から考える

便利な道具は増えている。

だからこそ、

どの道具へ情報を集めるか、

というところから考え始めてしまいやすい。

しかし日常の仕事では、

情報にはそれぞれ違う相手がいる。

明日の自分。

同僚。

上司。

取引先。

専門家。

会社全体。

そして、それぞれ必要な情報の量も、残しておく期間も違う。

だから、

情報を残すとき、保存場所を決める前に、まず「次に誰が使う情報なのか」を考えてみる。

そこを最初の基準にすると、

付箋でも、

メールでも、

共有ツールでも、

業務システムでも、

その仕事にちょうどよい重さを選びやすくなる。

全部を一つにまとめることより、

必要な情報が、必要な相手へ届くこと。

そして、必要な間だけきちんと残っていること。

小さな会社の日常では、そのくらいの情報管理から始めてもよいのかもしれない。