はじめに

2026年10月9日、政府は飲食料品の消費税率を現行の8%から1%に引き下げる法案を閣議決定し、国会へ提出した。

予定されているのは、2027年4月1日から2年間の臨時的な引下げである。対象は、現在の軽減税率が適用される飲食料品とされている。

消費者にとっては、買い物の際に負担する消費税が小さくなるという、比較的分かりやすい変化だろう。

一方、食品を販売する事業者の側から見ると、少し違った現象が生まれる。

それは、商売では利益が出ているのに、消費税の計算上は還付が発生する場合があるということだ。

一見すると不思議な話だが、利益の計算と消費税の計算を分けてみると、その仕組みが見えてくる。

※本記事は2026年10月10日時点の政府公表資料に基づく。法案は国会提出段階であり、今後内容が変更される可能性がある。

黒字なのに330円が戻ってくる?

例えば、食品を販売する小さな事業者を考えてみる。

商品を10,000円で販売し、その商品の仕入れに3,000円、物流費やテナント料などの経費に4,000円を使ったとする。

ここでは分かりやすく、金額をすべて税抜きで考える。

項目 税抜金額 消費税率 消費税額
食品売上 10,000円 1% 100円
食品仕入 3,000円 1% 30円
その他経費 4,000円 10% 400円

この場合、売上から仕入れと経費を差し引くと、

10,000円 − 3,000円 − 4,000円 = 3,000円

となる。

この3,000円は、売上から今回示した費用を差し引いた金額だ。ほかの費用などは考慮していないが、少なくともこの範囲では黒字である。

ところが、消費税を計算すると結果が変わる。

売上にかかる消費税は100円。

一方、食品の仕入れで30円、その他の経費で400円、合計430円の消費税を支払っている。

100円 − 430円 = −330円

売上にかかる消費税より、仕入れや経費で支払った消費税の方が330円多い。

本則課税を適用し、仕入れや経費にかかる消費税を全額控除できるものとして計算すると、330円の還付が生じることになる。

3,000円の黒字でありながら、消費税は330円の還付になる。

これが、食品の税率が1%になった場合に起こり得る現象である。

ただし、これは仕組みを示すための単純化した計算例だ。実際の還付額は、一つの取引だけではなく、課税期間全体の売上・仕入、仕入税額控除の要件、端数処理などによって決まる。

利益と消費税は、別の計算をしている

なぜ、このようなことが起こるのだろうか。

理由は、利益と消費税では、計算しているものが異なるためだ。

利益を計算するときは、基本的に売上から仕入れや経費を差し引く。

一方、本則課税による消費税の納付額は、原則として売上にかかる消費税から、仕入れや経費にかかる控除対象の消費税を差し引いて計算する。

普段は、この二つの計算結果が似た方向に動いて見えるかもしれない。

しかし、売上と経費に異なる税率が適用されると、その関係は変わる。

今回の例では、食品の売上に適用される税率は1%だが、物流費や広告費、テナント料などには引き続き10%が適用されると想定している。

そのため、売上金額の方が大きくても、売上にかかる消費税額より、経費で支払う消費税額の方が大きくなる場合がある。

これは、商売が赤字になったという意味ではない。

また、還付が発生すること自体が、事業の収益力の高さを表しているわけでもない。

消費税の計算上、控除する税額が売上にかかる税額を上回ったということである。

利益と消費税の納付額は、必ずしも同じ方向に動くわけではない。

すべての食品事業者が還付されるわけではない

ここで気をつけたいのは、食品の税率が1%になれば、食品を販売する会社の多くが還付を受けると決まったわけではないことだ。

実際には、食品の仕入れが売上に対してどの程度あるのか、10%の経費がどの程度あるのかによって結果が変わる。

例えば、同じ10,000円の食品売上でも、10%の経費が少なければ還付にならず、納税額が残る場合もある。

さらに、消費税には事業者ごとに異なる計算方法がある。

一般的な本則課税では、実際の課税仕入れや経費にかかる消費税を基に仕入税額控除を計算する。

一方、小規模事業者が利用することのある簡易課税制度では、実際に支払った消費税額をそのまま差し引くのではなく、売上にかかる税額と業種ごとの「みなし仕入率」を使って計算する。

今回の食品税率引下げ案では、この簡易課税による計算についても特例が設けられる予定である。

そのため、実際の経費に10%の消費税が含まれていても、それだけで還付額が決まるわけではない。

また、消費税の納税義務が免除されている事業者については、原則として消費税の還付も発生しない。

つまり、税率が1%になるという情報だけでは、自分の会社が還付を受けるかどうかまでは分からないのである。

税率が変わるとき、自分の会社では何を確認するか

制度変更のニュースを見ると、どうしても新しい税率そのものに目が向く。

8%が1%になる。

その差は7ポイントだ。

しかし、実際に事務処理をする側では、税率以外にも確認しておきたいことがある。

例えば、現在どのような方法で消費税を計算しているのか。

売上のうち、食品など軽減税率の対象となるものがどの程度あるのか。

仕入れや経費には、どの税率の取引が多いのか。

こうした条件が分からなければ、税率変更が自社の納税額にどのような影響を与えるかを判断するのは難しい。

もっとも、今すぐ複雑な試算を始める必要があるとは限らない。

小規模事業者であれば、まず現在の消費税の申告書や、税理士から受け取った説明資料を確認してみるだけでもよい。

自社が本則課税なのか、簡易課税なのか。

その違いを把握しておくだけでも、制度変更の説明を聞くときの見え方は変わる。

特に課税方式の選択や変更には、適用条件や届出期限などが関係する。還付を受けられそうだからといって、すぐに計算方式を変更できるとは限らない。

具体的な対応については、制度の正式な内容を確認したうえで、税理士などの専門家と相談することになる。

数字が変わったとき、何が変わったのかを見る

今回の例をもう一度見てみる。

食品を10,000円で販売し、仕入れと経費を合わせて7,000円使う。

この取引の構成を変えず、食品の税率だけが現行の8%から1%になった場合を考えてみよう。

本則課税で、仕入税額控除を全額適用できると仮定する。

項目 食品税率8% 食品税率1%
食品売上の消費税 800円 100円
食品仕入の消費税 240円 30円
その他経費の消費税 400円 400円
差引消費税 160円(納付) −330円(還付)

税抜売上と税抜費用は変わっていない。

それでも、消費税の計算結果は160円の納付から330円の還付へ変わる。

ここで変化したのは、まず適用される税率と、それに伴う消費税の計算結果である。

もちろん現実には、税率変更によって販売価格や仕入価格が変化する可能性もある。そうなれば、利益や資金繰りにも別の影響が出てくる。

しかし、税率が変わったことによる数字の変化と、実際の商売の変化は分けて見ることができる。

以前と違う数字が出てきたからといって、それだけで経営状態が改善したとも、悪化したとも判断できない。

まず、何の条件が変わったのかを確認する。

今回の食品消費税率1%という制度案は、普段あまり意識することのない、利益と税額の違いを見直す機会にもなる。

利益の数字と消費税の数字は、同じものを表しているわけではない。

その違いを知っておくだけでも、制度が変わったとき、自社の数字を落ち着いて読み直す手がかりになるだろう。

参考資料・注記

  • 内閣官房「飲食料品に係る消費税率の引下げ及び給付付き税額控除について」
  • 国税庁「No.6401 仕入控除税額の計算方法」
  • 国税庁「No.6451 仕入税額控除の対象となるもの」
  • 国税庁「No.6613 免税事業者と仕入税額の還付」
  • 国税庁「簡易課税制度」関連資料

※本文中の金額は税抜金額による説明用のモデルであり、事業者の課税方式、控除要件、課税期間全体の取引、申告上の計算方法などは単純化している。個別の事業者について還付額や納付額を保証するものではない。