はじめに
例えば、帳簿に次のような記録があるとする。
通信費 10,000円
金額も分かる。
勘定科目も分かる。
帳簿上は、それだけでも処理できる場合がある。
しかし、その数字を見た人が次に知りたくなるのは、
「これは誰に払ったものなのか」
かもしれない。
通信会社なのか。
クラウドサービスなのか。
機器の保守会社なのか。
毎月発生するものなのか。
一時的な支払いなのか。
勘定科目は分かっている。
それでも、実際の取引の姿まではまだ見えない。
「通信費」でまとめれば、会計としては整理できる
会計では、取引を勘定科目ごとに整理する。
通信費。
消耗品費。
外注費。
支払手数料。
売上高。
仕入高。
こうして同じ性質の取引をまとめることで、
会社全体として何にいくら使ったのか、
どこから売上が発生したのか、
を集計できる。
これは会計にとって重要な役割である。
ただし、
同じ科目に集計すると、個々の取引の違いは見えにくくなる。
例えば外注費が月に50万円あったとしても、
A社に50万円なのか、
5社に10万円ずつなのか、
一社だけ今月増えたのか、
毎月同じ相手なのか、
勘定科目だけでは分からない。
実際の仕事には、相手がいる
会社のお金は、
勘定科目と取引しているわけではない。
誰かに払う。
誰かから受け取る。
誰かに請求する。
誰かから仕入れる。
実際の仕事では、
多くの取引に相手がいる。
例えば、
外注費 100,000円
という記録より、
外注費 100,000円
相手先:A社
と分かった方が、
その数字がどの仕事とつながっているかを理解しやすい。
さらに過去と並べれば、
4月 A社 80,000円
5月 A社 80,000円
6月 A社 100,000円
という変化も見える。
ここではじめて、
「今月はなぜ増えたのだろう」
という問いが出てくる。
「誰に」は、会計では主役になりにくい
会計ソフトでは、
中心になるのは勘定科目であることが多い。
取引相手は、
補助科目として管理したり、
摘要へ記載したり、
専用の取引先項目を使ったりする。
持ち方はシステムによって異なる。
例えば、
勘定科目:外注費
補助科目:A社
という形で管理する場合もある。
あるいは、
摘要:A社 Web更新作業
のように、摘要欄へ書くこともある。
これでも記録はできる。
ただ、
相手先が摘要の一部になると、
その情報は文章の中へ埋もれる。
A社 9月分
A社ホームページ修正
株式会社A 追加作業
A社様
のように書き方が変われば、
同じ相手でも別の文字列になる。
あとから一覧にしようとすると、
整理する仕事が必要になる。
摘要欄には、いろいろなものが入る
摘要は便利である。
自由に書ける。
そのため、
相手先。
案件名。
支払内容。
担当者名。
請求書番号。
ちょっとした説明。
さまざまな情報を入れられる。
一方で、
自由に書けるということは、
何が書かれているかが決まっていない
ということでもある。
例えば、
A社 9月分 更新費
という摘要を見れば、人間なら意味を理解できる。
しかし、
「A社との取引だけ一覧にしたい」
「取引先別の支払額を見たい」
となると、
A社という情報が独立した項目として入っている方が扱いやすい。
勘定科目と相手先では、見えているものが違う
勘定科目は、
その取引を、どの種類として記録するか
を見るための情報である。
相手先は、
誰との取引か
を見るための情報である。
例えば、
外注費
だけなら、
会社全体として外注にいくら使ったかを見ることができる。
一方、
外注費 × A社
外注費 × B社
外注費 × C社
と見られれば、
同じ外注費の中身が分かれる。
これはどちらが正しいという話ではない。
見たいものが違う。
勘定科目
→ 取引の種類を見る
相手先
→ 取引の相手を見る
という違いである。
数字が合っていても、仕事が見えるとは限らない
会計では、
数字が正しく集計されることがまず重要である。
借方と貸方が合っている。
残高が合っている。
決算書が作れる。
税務申告ができる。
それは当然必要である。
しかし、
日常的に会社の状態を見ようとすると、
それだけでは足りないことがある。
例えば外注費が増えている。
それが、
単価が上がったのか。
発注量が増えたのか。
新しい取引先が増えたのか。
特定の会社への依存が増えたのか。
数字だけでは判断できない。
そこで相手先を見ると、
もう少し具体的な取引へ戻ることができる。
「誰に払ったか」は、本当に補助的なのか
会計上は、
相手先を独立した項目として持たなくても処理できる場合がある。
その意味では、
相手先は中心項目ではないことも多い。
しかし会社の日常業務から見ると、
「誰に払ったか」
「誰から受け取ったか」
はかなり基本的な情報である。
請求書にも相手がいる。
契約にも相手がいる。
振込にも相手がいる。
問い合わせにも相手がいる。
営業にも相手がいる。
それなのに、
会計データへ入った途端、
相手が摘要の一部になったり、
補助科目の奥へ入ったりすることがある。
ここには少し距離がある。
現実の取引
誰と・何を・いくらで
↓
会計
どの種類の取引として・いくら
会計は現実を整理するために必要な抽象化をしている。
ただ、
その抽象化によって見えにくくなる情報もある。
相手先が分かると、質問が変わる
例えば、
支払手数料 120,000円
だけを見ると、
「手数料が多い」
という見方になる。
相手先まで分かると、
決済サービスA 70,000円
銀行B 30,000円
サービスC 20,000円
となる。
すると、
「何にこんなに手数料がかかっているのか」
ではなく、
「決済サービスAへの支払いが増えたのはなぜか」
という、もう少し具体的な問いになる。
情報が細かくなったから良い、
ということではない。
問いが現実の取引へ近づく。
そこに意味がある。
すべてを細かく管理する必要はない
もちろん、
すべての仕訳について、
相手先を厳密に登録しなければならない、
という話ではない。
例えば、
少額の現金支出。
一度しか使わない店舗。
相手先を分けても判断が変わらない取引。
こうしたものまで細かく管理すると、
入力の手間だけが増えることもある。
ここでも、
前回までの記事と似た問題が出てくる。
管理できる情報を増やせば、
管理する仕事も増える。
だから、
相手先を持てばよい、
ではなく、
相手先を見ることで何か判断が変わる取引なのか
を考える方がよい。
相手先を独立した項目として持つ
GIMCALC301では、
取引先を摘要の中へ書くだけではなく、
「相手先」として持てるようにしている。
これは、
勘定科目を置き換えるためではない。
補助科目を否定するためでもない。
勘定科目とは別に、
誰との取引だったのかを後から見られる状態にしておく
ためである。
例えば、
勘定科目:外注費
相手先 :A社
金額 :100,000円
という形なら、
外注費全体を見ることもできる。
A社との取引だけを見ることもできる。
勘定科目と相手先を、
別の方向から同じ取引を見るための情報として扱える。
会計から、実際の仕事へ戻れるか
会計は、
たくさんの取引を整理し、
数字としてまとめるための仕組みである。
そのためには、
ある程度の抽象化が必要になる。
一方、会社を運営する人が知りたいのは、
集計された数字だけとは限らない。
この支払いは誰にしたのか。
この売上はどの相手からなのか。
なぜ今月増えたのか。
去年と何が変わったのか。
勘定科目を見ると、
その取引をどの種類として記録したかが分かる。
相手先を見ると、
誰との取引だったかが分かる。
どちらか一方だけで見る必要はない。
帳簿から実際の取引へ戻りたいとき、
相手先が独立して残っていることで、
問いを具体的な取引まで戻せる場合がある。
GIMCALC301で「相手先」を独立した項目としているのも、
会計情報を増やすことそのものが目的ではない。
数字から、実際の取引へ戻るための手がかりを残す。
そのための一つの項目として扱っている。